トランプ米政権が国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子所長らを制裁対象に指定した。ルビオ国務長官はICCを「腐敗し、致命的なまでに政治化した超国家的裁判所」と痛烈に批判。ネット上でも「新疆ウイグル問題で中国に忖度している」との声がある。ICCは本当に不公正な組織なのか。中国を追及できない背景には管轄権の壁がある一方、大国ほど責任追及を免れやすいという弱点もある。しかし、こうした限界があるからといって、ICCそのものを不公正な組織と断じてよいのか。その実像を考える。

ICCは世界中の犯罪を自由に裁ける「世界政府の裁判所」ではない。原則として、犯罪が締約国で起きたか、被疑者が締約国の国民であることなどがICCの捜査・訴追の条件となる。中国は非締約国で、安保理付託も中国が拒否権を持つため困難だ。

亡命ウイグル人側は2020年、締約国から中国への強制送還などを根拠にICCへ申し立てたが、捜査には至らなかった。捜査に必要な管轄権を十分に確認できなかったためだ。

一方、ICCは2024年、イスラエルのネタニヤフ首相らにガザでの戦争犯罪などの容疑で逮捕状を発付した。イスラエルは非締約国だが、ICCは締約国パレスチナの領域を根拠に管轄権を行使し、米国との対立につながった。

ICCには自前の警察力がなく、国家の協力や大国政治に左右される弱点がある。しかし、こうした制度的欠陥を批判することと、裁判官ら個人への制裁は別問題だ。18人の判事のうち9人が米国の制裁対象となっている。

ICCの弱体化は、戦争指導者の刑事責任を追及する国際的な仕組みにも影響する。日本が守るべきなのはICCの全ての判断ではない。武力紛争下でも、司法が政治権力から独立して判断できるという「法の支配」の原則そのものではないか。