トランプ米大統領が北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記との直接対話に向けて動くなか、中国の王毅国務委員兼外相は8月19~20日、約5年ぶりに韓国を単独訪問した。表向きの目的は中韓関係の立て直しだが、背後には中国を通らずに朝鮮半島の秩序が組み替えられることへの危機感があるようだ。
朝鮮半島北側ではロシアが兵員や兵器の提供と引き換えに北朝鮮を支え、中国以外の後ろ盾となった。南側では日米韓の安全保障協力が進む。さらに米朝が首脳同士の取引に入れば、核や制裁を巡る交渉から中国が外されかねない。三つの動きは中国包囲網として設計されたものではないが、結果的に中国の影響力を削ぐ。
王毅氏が韓国に説いた「戦略的自主」は米韓同盟からの離脱を迫る言葉ではない。台湾、半導体、サプライチェーンなどで韓国が日米と自動的に歩調を合わせるのを防いで3カ国協力に「中国が入り込む隙間」を残すのが狙いだ。韓国が米朝交渉から疎外されかねないと不安を抱いている点にも働きかけているようにみえる。
FTAや人的交流の拡大も「中国とのデカップリングの代償を大きくする構造」を確かなものとする手段だろう。
中国は米朝対話の責任を負わず、進展すれば秩序づくりに加わる。決裂すれば北朝鮮を擁護する。北朝鮮への影響力が低下するなか、王毅氏訪韓は中国が韓国にも足場を築き、朝鮮半島問題から外されるのを防ぐ布石といえる。
中国が韓国に置いたのは「友好の花束」ではない。次の朝鮮半島秩序にも「中国の席を空けておけ」と告げる「置き手紙」ではないか。