『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』が公開20日で興行収入80.7億円を記録した。語られているのは救われない結末だけではない。SNSで名前が繰り返し挙がるのが、本筋にほとんど関わらないくりまんじゅうである。島の裏側で焼きそばとビールを楽しみ、二日酔いになり、シーサーに介抱され、バカンスを満喫していた一人だ。乾杯したい、あのパートがあるから本筋が際立つ——脇にいたはずのキャラクターが、なぜここまで語られるのか。

くりまんじゅうの人気は映画で生まれたものではない。LINEリサーチが公開前の7月上旬に実施した調査では、作品を「よく知っている」層に限ると、好きなキャラクターの4位に入る。本筋を動かさないキャラクターが、主要3人に続く。3月にはモノ雑誌の付録にスキットルのセットが選ばれてもいた。深く知る人ほど推しが分散し、その受け皿になってきた。

映画で変わったのは、同時進行の見え方だ。ちいかわたちがセイレーンと対峙している間、くりまんじゅうは二日酔いで寝込み、シーサーがゆし豆腐を作って介抱している。この配置は原作から仕込まれているが、週ごとに分断される連載では別の回として処理される。99分続く映画では、同じ島の同じ時刻に流れる二つの時間になる。逃げ場のなさが際立つのは、逃げている側が画面にいるからだ。

もう一つは、労働の外にいることだろう。『ちいかわ』の世界では草むしりも討伐も報酬に直結し、酒を飲むことにすら資格がいる。そのなかでくりまんじゅうは、資格を取ったうえで堂々と降りている。一緒に乾杯したい、親近感を覚えるという反応が並ぶのは、キャラクターへの好意に加え、降りていい時間への願望に近いのではないか。